- 2023年1月14日
更新日:2023年3月26日

20数年間に渡って使い込まれた、三重織の絹ストールである。
もともと非常に「粗」な織物なので、織り目が動き易かったことでもあるが、
兎にも角にも、
ここまで使い込んでいただけるとは、制作サイドとしては冥利に尽きる。
所有する本人曰く、
使う程にどんどん感触が心地良くなってくるので、それに連れてここまできてしまっている。
傷んできたとは全く感じていないので、まだまだいける。
旅先、飛行機とか列車の中で上着を脱いだ時などの、襟周辺のフッとした心許なさを支えてれる。・・・・・のだとか。
このストールは、当所開発第一号の製品であるが・・・、
地中海シチリア島の「ローザ」と呼ばれる黄色い繭(日本保存)から、
多条繰糸機(大正時代主流)の繊度感知器を外した状態で糸を挽き、
単糸生成り(未精練)で用いている。
生糸の黄色味の変化と、分繊などが割と早めに進行するようなので、
その「分かり易い変容」をテーマにしたものであった。
有体に言うと、
織物の本質は、「使ってナンボ」だ。
いきなりであるが、
「糞掃衣(フンゾウエ)」なる響の言葉、ご存知だろうか?
東博に「国宝」として保存されていたりするのだが、
僧侶包囲袈裟の福田の由来に関わる表現であるが、絹織物のことでもあり、
先述の「使ってナンボ」の話を拡げて仏法で説いているのではないかと思うのである。
「物」が「もの」で有り続けることが出来る極限の時空を知りなさい。
と言うか、
その変容の深い奥行きをイメージできて初めて、「モノ」の本質に触れることが出来る。
・・・凡そ、そのような意味が含まれるのではないかと勝手に解釈してみる。
しかし、
衣素材を使い捨てる方向へと時代はどんどん加速している。